ポンコツエンジニアの読書記録。

30代のポンコツプラントエンジニアです。読書記録をつけることで、知識の定着を目論んでいます。

#5 Hillbilly Elegy(ヒルビリー エレジー);白人アメリカ人の生活

ヒルビリー・エレジー(田舎者の哀歌)を読みました。イェール大学ロースクールを卒業した著者が経験した幼少期〜現在に至るまでを綴った回想録です。

そこには、大学を卒業せず、労働者階層の一員として働く白人アメリカ人の実情が綴られています。全米で100万部売れたということは、労働者階級の人はもちろん知識階級の人たちも触れたくなくも真実が記載されている所が受けているのではないでしょうか。

著者は体験とその時の感情や思い、行動を非常に細かく描いており、作品に引き込まれます。普段スポットライトを浴びることのない白人アメリカ人の精神的・物質的貧困が詳細に描かれ、社会にどう影響しているか記述されていてとても勉強になりました。

 

まず、著者は自分が過ごした場所と人々をこう記述しています。

私は白人にはちがいないが、自分がアメリカ北東部のいわゆる「WASP(ホワイト・アングロサクソンプロテスタント)」に属する人間だと思ったことはない。その代わりに、「スコッツ=アイリッシュ」の家系に属し、大学を卒業せずに労働者階層の一員として働く白人アメリカ人のひとりだと見なしている。

そうした人たちにとって、貧困は、代々伝わる伝統といえる。祖先は南部の日雇い労働者として働き、その後はシェアクロッパー(物納小作人)、続いて炭鉱労働者になった。近年では、機械工や工場労働者として生計を立てている。

アメリカ社会では、彼らは「ヒルビリー(田舎者)」「レッドネック(首筋が赤く日焼けした白人労働者)」「ホワイト・トラッシュ(白いゴミ)」と呼ばれている。

だが、私にとって、彼らは隣人であり、友人であり、家族である。(p8)

 アメリカ人労働者事情を知りませんでしたが、旋盤工などの機械オペレーターは白人が行う作業に分類されていないんでしょう。

日本では、同一人種のため、上流階級から貧困層まで日本人のくくりですが、アメリカは白人が上流階級を占めていることを示していると思います。

では、このヒルビリーと呼ばれる人たちは一体どういった生活であるかというと、

・違法薬物に手を出す

・父親が何回も変わる。

・重労働から逃げて、良い仕事でも、長続きしない

・周囲が何とかしてくれると思っている

・口が悪い

家庭内暴力が往々に起こっている。

では、このような地域ができた理由として著者の地域では、

・重工業の誘致で貧困エリアから中流エリアに移り、時代とともに衰退した

・移れる力のあるものは移り、力のないものは取り残された

ということが起こったようです。

このような状況の中、 著者は地元の公立学校→海兵隊公立大学→イェール大学と著者の地元の人たちとは違った道を進みます。

ここには、祖母の献身的な援助、海兵隊で学んだ規律、公立大学と多くの方々に支援されて着実にエリート階層と言われる方々のいる場所に駒を進めていきます。

通常とは異なった環境で育った著者ですが、非常に素直に祖母の教え、思いを汲み取り真摯に取り組み、強い信念のもと自分で成功をどんどん掴んでいきます。

エリート階層での生活と貧困層の生活を事細かに記述したこの本は読み応えがありました。

 

自分が常識だと思っていたことでも、場所を離れて初めて乖離があることを認識する事がよくあります。

自分も首都圏→地方都市→メキシコと住む場所が変わりましたが、やはり同じ日本でも首都圏と地方都市では全く生活を支える基盤が異なっている事がわかりました。おそらく工業中心で栄えた地方都市はヒルビリーと呼ばれる人たちが比較的多いということ。工場を中心に町が形成されていない都心とは違い、昔から工業中心の生活を基盤としていることで、工業が町を支えるといった昔のスタイルでは頭脳の流出に対応できていないと感じます。地方都市の最低賃金が常に低い方にある理由もここにあるかと思います。一方、同一人種で構成されている日本において、すべての人が上流階級に移行できるかといったら、行けるわけもなく。大多数の日本人はヒルビリー的な状況を受領しなければないません。アメリカとは違い他に変わる人たちがいないので。

私も地元、地方都市、現在の会社の面々を比べた時、格段に良い生活、良い教育を受けてきたのは今の会社の仲間であることを入社時に痛感しました。それまで、知識やマナーに長けた人たちとは生活する事がなかった身としては非常に新鮮だったことを覚えています。著者ほどではないにしろ、私が生活してきた状況も似たような感じであり、共感を覚えました。

 

 

著者は最後までこの問題の打開策を見出せずにいましたが、非常に複雑な問題ゆえ解を見つけるのは困難でしょう。

ただ、読み終わって感じたのは、ヒルビリー的な人は日本でも圧倒的に多いということ。日本もアメリカと同じ問題に直面しているのではないかと考えさせられました。

 

 

ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち

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